From:由空(管理人) [/クロノトリガー]
(あ……) 千年祭に沸くリーネ広場で、すれ違いざま、視界の隅に映った人影に、マールは思わず振り返った。 人波に紛れて遠ざかっていくその髪は、夕日に似た赤。 ――でも。 (彼のはず、ないのに) 自嘲混じりに心で呟き、泣きたくなる気持ちをぐっとこらえる。 「マール?」 その様子に、隣にいたルッカが気遣わしげに声をかけた。 マールは軽く頭を振り、少し苦しい笑顔をつくった。 「なんでもない」
そう。なんでもない。 ただ、無意識に期待してしまっただけ。 いなくなった、あの人の姿を。
「……大丈夫よ、マール」 「え?」 ルッカは優しく微笑んだ。元気づけるように。 「きっと大丈夫。必ずまた会えるわ。ううん、会いに行きましょ。あいつに。あのバカに」 そして、ウインクひとつ。 「だから、今は早くベッケラーの所に向かわなきゃ。ね?」
――ああ……そうだね。 振り向くより、落ち込むより、今は。
「……うん!」
まっすぐ前を見て、なすべきことをしよう。 似てる誰かじゃない、 本当のあなたに会いたいから。
――待っていてね。……クロノ……
−END−
2002年09月03日 (火) 17時42分
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